・うちの会社は副業禁止だけど、アフィリエイトとかもダメ?
これらの疑問に対して、できるだけ詳しく法律や判例、国の指針などを調べた上で、記事としてまとめてみました。
僕は元サラリーマンですし、独立してからは労働法関係の仕事をしていたので、単にルールとしてだけでなく「日本の会社の実情」という観点からも、現実的な対応策を書いていきたいと思います。
なので、これから副業をすることを検討している人、今まさに副業をしている勤め人の人には、大いに参考になると思います。
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目次
副業禁止の就業規則のほとんどは法的根拠ナシ
まず、大前提として、会社が決める就業規則というのは、法律に従って作られなければいけないことになっています。
極端な話ですが、もし会社が法律を無視して就業規則を決められるとしたら、
「上司は部下を殴ってもOK。」
なんていうルールだって作れてしまうでしょう。
実際にはそんな事は許されないので、もし会社が法律に従わない形で就業規則を作ったとしても、また誓約書などを作って従業員に印鑑を押させたりサインをさせたとしても、法律に違反する部分については全て無効になります。
というわけで「就業規則で副業を禁止できるのか?」ということを法律の条文から確認してみることにしましょう。
「副業」は法律用語じゃない
最初に知っておかなければならないのは、実は「副業」や「兼業」という言葉が法律用語ではないということです。
法律用語ではないということは「法律上、はっきりと意味が決められていない」ということですから、いくら法律が書かれた文書を探しても「会社は就業規則で副業を禁止してはならない」というような直接的なことは書いてありません。
就業規則に関する法律:副業は簡単には禁止できない
しかし、労働基準法では会社の就業規則について、以下のように書かれています。
参照:労働基準法第93条
つまり、労働契約法という法律を見なさいということですが、その内容がこんな感じです。
参照:労働契約法第7条
「合理的な労働条件」という、かなりざっくりとした取り決めになっていますね。
これは恐らく、どんな状態が「合理的」かということはケースバイケースで、全てを法律の条文に書くのは難しいからだと考えられます。
そうすると頼りになるのは、実際に法律を使って判断をする機関である裁判所の解釈です。
個別の判例については後で紹介しますが、ここでは手っ取り早い結論として、厚生労働省の見解を見てみましょう。
参照:副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省PDF)
簡単にまとめると、今の法律の解釈では以下のどれかに該当しない限り、会社は従業員の副業を禁止できないと考えられます。
- 副業が会社での仕事に悪影響を及ぼす場合
- 副業によって会社の情報が外部に漏れる危険がある場合
- 副業によって会社の評判やイメージが悪くなる場合
※ただし公務員の場合は、別の法律で副業が禁止されています。
これについては下部の「公務員の場合は原則として副業禁止」の項目にまとめました。
実際の判例を紹介
次に、過去の裁判の判決から、副業を禁止した人へのペナルティーが「法律上どこまで許されるのか?」ということについて参考になりそうなものを抜粋して紹介してみます。
引用文はちょっと長いので、判例の下に僕がまとめた概要を書いておきました。
なので、趣旨だけをサクッと知りたいという人は緑色の部分を読み飛ばして進んてもらっても大丈夫です。
参照:副業・兼業の促進に関するガイドライン
過去の判例
東京都私立大学教授事件(東京地判平成20年12月5日)
【概要】
教授が無許可で語学学校講師等の業務に従事し、講義を休講したことを理由として行われた懲戒解雇について、副業は夜間や休日に行われており、本業への支障は認められず、解雇無効とした事案。
【判決抜粋】
兼職(二重就職)許可制に形式的には違反する場合であっても、職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である。
これは私立大学の教授が、働いている学校を休んで、他の語学学校の講師をしていたという話です。
さすがにこれは怒られるんじゃなの?という感じがしなくもないですが、この例では解雇処分が無効だと判断されました。
就業規則がどうかということよりも、労働者の権利を優先して、「会社に実質的な損害を与えたかどうか」という点がポイントになったようです。
過去の判例
小川建設事件(東京地決昭和57年11月19日)
【概要】
毎日6時間にわたるキャバレーでの無断就労を理由とする解雇について、兼業は深夜に及ぶものであって余暇利用のアルバイトの域を超えるものであり、社会通念上、会社への労務の誠実な提供に何らかの支障を来す蓋然性が高いことから、解雇有効とした事案。
【判決抜粋】
労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。しかしながら、・・・(中略)・・・兼業の内容によつては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたく、したがつて、同趣旨の債務者就業規則第三一条四項の規定は合理性を有するものである。
これは、会社の従業員が授業員がキャバレー(昭和臭がありますね(笑))で深夜に6時間働いていたというケースです。
さすがに本業に支障が出るということと、会社の信用にも関わるということで解雇が認められましたが、それでも裁判所は本来の形として「就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く」と言っています。
副業・兼業を禁止している会社の割合はなんと7割
以上のように、会社が従業員の副業を禁止することにはかなり厳しい制限があるのですが、それでも7割以上の会社が「禁止!」と言っているのが現状です。
参照:2018年の調査(株式会社リクルートキャリアによる)
就業規則などにはっきりと書かれていなくても、いわゆる「慣例」として認めていない会社もあるでしょうから、それを合わせるとさらに副業禁止の割合は大きくなるはずです。
残念ながら日本の企業の多くは、法律を軽視して経営陣の都合だけで従業員を縛りつけようとしているという印象が強いです。
副業は「黙ってこっそり」が基本
本当ならそんな権限は無いはずなのに、「副業禁止!」と言っている会社が多いということを考えると、
「そんな規則は違法ですよ。私には権利があるので副業します。」
と言ったところで、たぶん問題は解決しないでしょう。
ちょっと言い方は悪いですが、相手は「確信犯」ですから、いくら法律を主張しても「知りませんでした。ゴメンナサイ。」という反応は期待できません。
「副業しているから」という理由で従業員に罰を与えることはできませんが、別の理由をこじつけて不当に評価を低くしたり、嫌がらせをしてくる可能性は大いにあります。
そこまで行かなくても、副業をしている従業員がミスをしたりすれば、
「副業なんかやってるから、会社での仕事に身が入らないんじゃないか。」
なんて思われるかもしれません。
僕がTwitterで副業禁止についてつぶやいた時、以下のような話を共有してくれた人もいました。
会社バレした時に懲戒解雇が怖くて、わざわざ律儀に副業申請書を会社に提出して、社内で物議を醸してる最中な私が通りますよ。人事と総務がザワついているのを肌で感じる…風当たり悪くなってるし、出さなきゃ良かったぜよ。正直者が損をする。無知が損をする。堂々とこっそり副業しましょう!!
— 日本橋ひかる (@JapBASihIkArU) 2019年6月20日
まさに「正直者が馬鹿を見る」ということが起こるわけです。
なので、勤めている会社が「社員の副業は大歓迎です!」と公言しているのでもない限り、副業は誰にも言わずにコッソリやるのが懸命だと思います。
どこから情報が漏れるか分かりませんので、同僚などにも「副業で儲かっててさ」なんて話はしない方がいいでしょう。
SNSなどに身元がバレるような投稿をすることも非常に危険です。
確定申告をすると会社にバレる?
「会社に内緒で副業をしても、確定申告をした時にバレるんじゃない?」
という心配をしている人も多いと思いますが、これについては心配いりません。
確かに、ある程度以上の金額を稼ぐと、副業でも納税義務が発生して、これによって住民税の金額が上がります。
サラリーマンの多くは、この住民税を会社が給料から天引きして払っているので、金額が変わるとバレる・・・ということです。
でも、これは確定申告の手続で防ぐことができます。
税務署に書類を提出する時に、確定申告書第二表の「住民税に関する事項」の「自分で納付(普通徴収)」を選べば、上がった分の住民税は会社とは別に自分で処理できるんです。
一応、画像を載せておくことにしますね。
ただし、副業の内容がコンビニでや道路工事のアルバイトのような仕事であった場合、この方法は使えません。
従業員として雇われて働く場合は自動的に「特別徴収」になって、住民税の額は自動的に合算されてしまうからです。
なので、副業をするならネットビジネスのように、人に雇われないものを選んだほうがいいでしょう。
なお、確定申告をすることによって、税務署から会社に副業の情報が渡るということはまずありません。
以前にある税理士さんに聞いた話によると、税務署は守秘義務によって、極端に言えば納税者が違法行為をしていてもそれを警察に報告したりしないんだそうです。
だから極端な話、ヤクザがピストルを経費で買っていても、ちゃんと納税されていれば文句は言わない、とのことでした(笑)。
あくまでも「そういうケースもあった」というだけかもしれませんが、よほど深刻な人為的ミスでも起こらない限り、税務署が個人の副業の情報を会社にバラすことはないでしょう。
マイナンバーの一致によってバレることも、開業届を提出することによってバレることもありません。
人為的ミスによる情報の漏洩について
僕自身の周りで実際に起ったことはありませんが、まれに地方自治体の担当者が、住民税の納付書を会社に送ってしまうということがあるそうです。
今はインターネットでの副業も一般的になっているので、そうそう起こりえない事だとは思いますが、会社が「副業禁止」をはっきりと宣言している場合は、各自治体のwebサイトなどで連絡先を調べた上で、あらかじめ事情を説明しておいたほうがいいかもしれません。
なお、会社にバレないように「確定申告をしない」というのは絶対にNGです。
特にネットビジネスの場合は銀行経由で報酬を受け取るので、金額が小さくても確実にバレて、後で罰金を含めてしっかり徴収されます。
公務員の場合は原則として副業禁止
民間企業の場合と違い、公務員(国家公務員・地方公務員の両方)の場合は法律によって副業が禁止されています。
参照:国家公務員(国家公務員法第103・104条)
参照:地方公務員(地方公務員法第38条)
自治体によっては条件付きで副業を認めている場合もありますが、その内容は今の所(2019年6月現在)「公益的活動」に限られているようです。
例えば地域のNPOを手伝って福祉の仕事をするとか、地元のスポーツイベントの指導員をする、というような場合ですね。
ただし、株やFXへの投資の場合は「副業」とは見なされないので、禁止の対象外です。
また、公務に影響が無い範囲で公演を行ったり、執筆活動などによって得られる印税に関しては認められているようなので、詳細については所属している機関に確認するようにしてみて下さい。
今回のまとめ
最後に、今回の内容を簡単にまとめておきます。
ポイント
- 以下に該当しない場合、副業禁止の就業規則は法的に無効
→ 会社での仕事に悪影響を及ぼす場合
→ 会社の情報が外部に漏れる危険がある場合
→ 会社の評判やイメージが悪くなる場合 - 副業は「会社に黙ってこっそり」が基本
- 従業員として他社に雇われなければ、確定申告してもバレない
- 公務員の副業は原則禁止(一部例外あり)