・睡眠学習は、英語を覚えるのに使えますか?
睡眠学習というのは、要するに「寝ている間に、脳に情報をインプットできる」という勉強法のことです。
普通に考えると、睡眠というのは頭や体を休めるためのものであって、寝ている間に知識を得るなんていうことは無理だと思うでしょう。
逆に、もしも寝ている間に学習効果が得られる方法があるなら、やってみたいと考えるのは当然です。
特に、時間が無い中で一生懸命勉強している人は、「少しでもプラスになるなら儲けもの」と考えるに違いありません。
何にでも興味を持つ僕は、当然のことながら睡眠学習も試してみたことがあるので、そんな経験も踏まえつつ、睡眠学習の効果に関する根拠や、効果的な実践方法などについてまとめてみることにします。
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目次
睡眠学習の効果に関する希望と嘘と絶望の歴史
睡眠学習の歴史は意外と古く、1920年代のアメリカにまでさかのぼります。
「同じ勉強をさせたグループの中で、睡眠を取らせた人たちの方が記憶が定着しやすかった」という単純な実験の結果を元に、「睡眠中に聞くだけで覚えられる」という勉強法が考案されました。
その後の1950年代になって、学習効果が否定されたことにより、アメリカでは一気にオワコン化。
しかし、なぜか1960年代になってから、日本でもテープレコーダーを組み込んだ睡眠学習用枕が発売され、これが大ブームになりました。
今でもネット上には、当時の睡眠学習用枕や広告の画像がたくさんアップロードされていますし、「ちびまる子ちゃん」の作者である、さくらももこさんのエッセイ集「もものかんづめ」の中にも、この枕に関するエピソードが登場しています。
昭和でいうと30年代くらいの話なので、一定以上の年齢の人は「懐かしい」と感じるかも知れません。
しかし、1970年代になって「結局、覚えられるのはテープに吹き込んでる時だけだよね。」という話になり、睡眠学習は日本においてもオワコン化していきました。
当時は日本と海外の間の「文化の壁」がまだまだ高かったので、日本人は今で言う「情弱ビジネス」のカモにされたのかも知れません。
しかし、さらに時は流れて2014年。
スイスの大学で行われた実験で、またまた「睡眠学習に一定の効果がある」という話が出てきます。
この実験では、ドイツ語を母語とする人たちにオランダ語の単語をいくつか学習した後に、2つのグループに分かれてもらいました。
そして、片方のグループには仮眠を取ってもらい、その場所には目が覚めない程度のボリュームで、学習した単語の内容を録音した音声を流しました。
もう一方のグループの人たちは仮眠を取らず、起きた状態で同じ音声を聞いてもらいました。
その結果、仮眠した方たちのほうが、起きた状態で音声を聞いていた人たちよりも、単語テストの成績が良かったんだそうです。
さらに、同じ「仮眠を取る」という条件で、音声を流す場合と流さない場合に分けて実験を行った場合は、音声を流したグループのほうが成績が良いということも分かりました。
つまり、単に「眠ったから」というだけでなく「眠っている間に音声を聞く」という睡眠学習について、一定の効果があることが証明されたということです。
参考:睡眠学習(Wikipediaより)
参考:実験で明かす睡眠と記憶(日経サイエンスHPより)
参考:Boosting Vocabulary Learning by Verbal Cueing During Sleep(英語サイト)
効果的な睡眠学習の原理と実践法
ここからは、現代版の睡眠学習のやり方と、その原理について一通り説明しておきましょう。
何と言ってもこういうものは「やってみるのが一番」ですからね。
睡眠学習用の音声を用意する
睡眠学習に適しているのは、英単語→日本語(あるいはその逆)という音声が流れるような、単純な形の教材です。
ボイスレコーダーなどを使って自分で音声ファイルを作ってもいいですが、発音の正確性や時間の効率化などを考えると、「キクタン」シリーズのような市販の音声単語帳を使うのが手っ取り早いでしょう。(多分、図書館などでも借りられると思います)
準備に時間がかかってしまうようだと、かえって勉強の時間が削られることになりかねません。
寝る前に予習をする
最新の実験の中で効果が確認されたのは、あくまでも「既に勉強しておいた記憶の定着」です。
これは多分、睡眠学習の効果が、勉強した結果として脳内に入ってきた短期記憶を長期記憶として定着させることにあるからだと思います。
事前に勉強していないことを睡眠学習の中で聞いても学習効果はないので、その点には注意が必要です。
なので、眠る前には、その日の睡眠学習の中で勉強する内容を、テキストを読み込んだり発声したりして、頭の中に入れましょう。
ノンレム睡眠時に音声が流れるようセット
音声の準備と予習が終わったら、今度は音声を再生できるデバイスを使って、眠りが深くなった時にちょうどその音声が聞こえてくるようにセッティングします。
具体的にはスマホなどに音声ファイルを入れておいて、イヤホンを耳に入れたまま眠るのがいいでしょう。
僕の場合は準備が面倒だったので、寝ている間ずっと音声を流しっぱなしにしていましたが、アラームで流す音を学習用の音声に変更すれば、狙った時間に音声を流すことができるはずです。
睡眠学習の効果は、聞いている人がノンレム睡眠、つまり深い眠りに入っている時なので、その時間に耳から情報が入るようにします。
ご注意
レム睡眠・ノンレム睡眠の話については、解説が間違っているwebサイトが多いので注意が必要です。「レム」というのは「REM(rapid eye movement)」つまり「眼球の素早い動き」のことで、これが現れているレム睡眠時には眠りが浅く、逆にノンレムの時は眼球の動きは無くなり、これが深い眠りに入っていることを意味しています。
過去の実験では、ノンレム睡眠時に音声を聞くことでシータ波(集中して学習する時などに確認される脳波)が確認されているそうなので、この時間を狙って耳から音を入れるわけです。
通常、人は90分くらいで「レム睡眠→ノンレム睡眠」のサイクルを繰り返すので、眠りに入るまでの時間を計算に入れると、45分から1時間くらいで音声が流れるようにするのがいいと思います。
ただし、睡眠のリズムは人によっても微妙に違うので、睡眠サイクルの状態についてもアプリなどで記録してみることをおすすめします。
ちなみに僕は「Sleep Meister」というソフトで、毎日の睡眠をモニタリングしています。
なお、音声のボリュームが大きすぎると眠りが妨害されて逆効果になるので、事前に必ずテストをしておきましょう。
また、「イヤホンが邪魔で眠りにくい」という場合は、横になって使うこと(「寝ホン」と言うそうです)を想定したイヤホンを使うという手もあります。(詳しくはこの記事の最後で紹介します)
起きた時に復習を兼ねて効果を確認
翌朝に目を覚ましたら、睡眠中にどれくらい記憶が定着しているかを確認するために、前日の夜に勉強した部分の復習をしてみましょう。
睡眠学習に効果があるかどうかを確かめるには、例えば英単語の意味が思い出せるかどうかを確認して、それを数値化してみるのが良いと思います。
「20個中10個覚えていた」とか「10個中7個覚えていた」というようなことをメモしておいて、ただ勉強しただけの日と、寝ている間に音声を聞いた日の結果を比較してみれば、睡眠学習の効果を評価することができます。
僕が体感した睡眠学習の効果
理論上は「効果がある」とされている睡眠学習ですが、僕の場合はしばらく試した後でキッパリやめてしまって、今では全くやっていません。
その理由は、以下の2つです。
- 記憶の定着をそれほど実感できなかった
- 単純な暗記という勉強にあまり意味を感じていない
これはあくまでも僕個人の感想ですが、眠っている間に「記憶が定着した」という実感はそれほど強くなく、イヤホンを付けている「うっとうしさのマイナス」の方が大きかったというのが素直な感想です。(「寝ホン」用でないイヤホンを使っていたせいもあると思います)
また、何より大きかったのは、僕は単純な暗記よりも、英作文などの勉強を中心にやるタイプだったということです。
実際問題として、英語力を向上させようと思ったら、単語の意味だけを覚えてもあまり意味はありません。
英単語だけを単体で知っていても、会話の中での使われ方などを知らないと、使いようがないからです。
また、これもあくまで「僕自身の場合は」という話ですが、単語だけを勉強した場合と、文章の中にその単語を入れて勉強した場合では、後者のほうが記憶の定着率が高かったというのもあります。(単語だけの場合は92~93%、文章の場合は97%以上でした)
もちろん「意味がない」というわけではありませんが、わざわざ睡眠学習の勉強とその準備に時間を割くのであれば、その分他の勉強をした方が良いと考えたわけです。
ただしこれは、目的やその人の好みなどによっても違ってくると思います。
資格試験や定期テストなどのために大量の暗記をしなければならないような場合には、睡眠学習が効果的な方法になることも考えられるでしょう。
英語以外にも歴史の年号とか、科学の元素記号とか、応用できる分野はいくつかありそうです。
睡眠学習用のイヤホン?
一部の人の間では、イヤホンを付けて寝ることは「寝ホン」と言われていて、実はそういう使い方を想定したイヤホンも販売されています。
構造としては耳に入れる「カナル型」のイヤホンで、本体が小さ目に作られていて、柔らかいゴムなどで覆われているタイプの製品です。
普通のイヤホンの場合は、耳に入れた状態で横向きに寝ると、硬いイヤホンが耳を圧迫して痛くなりますが「寝ホン」用のイヤホンならそれを軽減する事ができます。
興味がある場合は「寝ホン(寝フォン)や「睡眠用 イヤホン」「sleep earphone」などの言葉で通販サイトを検索してみて下さい。
今回のまとめ
最後に、今回のまとめです。
ポイント
- 最近の研究では、睡眠学習に記憶の定着効果があることが分かっている
- 睡眠学習で効果を上げるには、予習+ノンレム睡眠時に音声を聞くこと
- 睡眠学習は単純な暗記のための方法なので、用途は限定される