・普通の人でも、ショートスリーパーになることはできますか?
今回は、普通の人よりも短い睡眠時間で生活している「ショートスリーパー」という生き方に関する記事です。
特に、短時間睡眠が寿命や健康にどんな影響を与えるのか?という部分について、いろいろな情報をもとに考えていきたいと思います。
一般的な考え方で言えば、健康に生きるためには、1日に7~8時間くらいの睡眠を確保する必要があるでしょう。
しかし、ショートスリーパーの人たちは、それよりもはるかに短い3~4時間程度、またはそれ以下の睡眠時間で普通に生活しています。
例えば、フランスの革命期に活躍したナポレオンは、1日に3時間程度しか眠らなかったと言われています。
また、以前にイギリスの首相だったマーガレット・サッチャーさんが、1日に4時間程度しか眠らないショートスリーパーだった、というのはかなり有名な話のようです。
ビジネスの世界で言えば、株式会社SHOWROOMの前田裕二さんも、平日は一日3時間睡眠で、週末のみ6時間睡眠に切り替えるという話をしていました。
普通の人がそんな生活をすれば、すぐに体を壊してしまいそうな気がしますよね。
でも、世の中には、
「誰でも訓練次第でショートスリーパーになれる!」
と主張する人がいたり、ショートスリーパーになるための講習を行っている会社もあるんです。
もし、誰もがショートスリーパーになることができて、しかも健康でいられるとしたら、一日の活動時間を増やすことで、今までよりも更に色々な事に時間を使えることになるでしょう。
でも、本当にそんな事が可能なんでしょうか?
普通の人より短命になったり、意外な所にデメリットがあったりしないんでしょうか?
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睡眠時間と寿命の関係
ショートスリーパーが短命か、それとも長寿かという話の前に、一般論として「睡眠時間が寿命に与える影響」について見てみたいと思います。
睡眠と健康、死亡率に関しては色々なところで調査が行われていますが、全体的に見るとほぼ結果は一致しています。
それは、統計的に見ると7から8時間前後の睡眠のときに最も死亡リスクが低くなり、それ以上長くても、逆に短くても病気の発生率が高くなるということです。
参考:やってはいけない【睡眠】最新データ!1日8時間以上眠ると死亡率が上昇
参考:SCIENTIFIC REPORTS(英語サイト)
これを大ざっぱにグラフにすると、以下のようになります。
長時間睡眠の場合にも、短時間睡眠と同じ様に死亡率が上がるというのはちょっと意外に思えるかも知れません。
とはいえ、「睡眠時間が短すぎると短命になる」という点は、一般的に考えられている「睡眠不足は危険」というイメージと一致するように思えます。
だとすると、やはり「ショートスリーパーは短命になる」と考えるべきなんでしょうか?
「短時間睡眠は早死にのもと」と言えるんでしょうか?
論理的に考えるなら、その結論を出すのはまだ早いと思います。
ここまでに書いてきた睡眠時間と死亡率の関係というのは、あくまでも「全体として」ということであって、全てのケースに当てはまるとは言えないからです。
例えば、同じ4時間睡眠でも「疲れているのに、忙しくて4時間しか眠れない・・・」という人と、「4時間寝ればスッキリ!」という人では、死亡率や寿命は大きく違う可能性があります。
そして、4時間睡眠でも健康でいられるショートスリーパーの数が「4時間しか眠れずに苦しんでいる人」よりもずっと少なかったとしたら、全体としては短時間睡眠=短命という結果に見えてもおかしくないからです。
ショートスリーパーは遺伝的なもの?
遺伝子は人間の体質を大きく左右するものの一つですが、2009年にカリフォルニア大学で行われた研究によると、もともとショートスリーパーだった人とそうでない人の間には、遺伝的な違いが発見されたそうです。
参考:The people who need very little sleep(英語サイト)
遺伝的ショートスリーパーの人たちは、「DEC2」と呼ばれる遺伝子に小さな突然変異が起こっていて、本来なら長い時間かかかるはずの脳の中での情報処理を、普通の人より短時間で済ませることができると考えられています。
もしも遺伝的な体質が、必要な睡眠時間を決める大きな要因だとしたら、普通の人が訓練でショートスリーパーになるのはかなり難しいと言えます。
ある程度は努力によって睡眠時間を短くすることができたとしても、そもそも遺伝的な体質が「天然の」ショートスリーパーとは違うわけですから、下手をすると「睡眠時間は減ったけど短命になった」という結果になりかねません。
ショートスリーパーになることを勧める人たち
「できる人は超短眠!」(フォレスト出版)の著者であり、ショートスリーパーになるための講習を提供するGAHAKU株式会社の代表である堀大輔さんという人は、従来の「7時間睡眠がベスト」という「睡眠神話」話に疑問を投げかけています。
堀さんによると、従来の研究の中で取得されたデータには偏ったものや古いものが多く「7時間寝なくてはいけない」という考えが、逆にストレスになる可能性もある、とのことです。
また、睡眠と寿命の関係についての取材では、以下のように回答しています。
参照:「1日45分しか寝ない」男性が主宰 ショートスリーパー「育成」講座に参加してみた(「Jcastニュース」より)
ただし、純粋に「科学的根拠」という面で見れば、堀さんの主張だけを信じるのは危険だと思います。
まず、従来の睡眠に関する研究に関しては、見る人によっては偏りがあったり、古かったりはするかもしれませんが、それでも「同じ傾向のあるたくさんのデータが残っている」のは確かです。
(日本語、英語で論文や調査について検索すると、数多くのデータを取得できます。)
それに対して僕が調べた限りでは、「普通の人が訓練によってショートスリーパーになったとしても、健康上の問題は起こらない」という研究データや論文のようなものは見つかりませんでした。(もし「ここにあるぞ!」という場合は、教えて頂けると助かります)
医学の知識のある人たちが作り上げた沢山のデータと、ショートスリーパー講習をビジネスにしている人の「経験を元にした主張」では、信頼性については前者のほうが上というのが僕の意見です。
「世界でトップクラスに睡眠時間が短い日本は、同時にトップクラスの長寿国」という発言についても、他の専門家が主張しているように色々な要因があるわけなので、あまり説得力があるとは言えないと思います。
例えば、長命・短命を決める要素として、「遺伝子」、「食生活」、「睡眠時間」の3つがあり、そのうち遺伝子と食生活の部分がブッチギリの1位だとしたら、睡眠の部分が最下位だったとしても「長寿国」になる可能性はあるでしょう。
もしも睡眠が十分だったら、もっと長寿国になっていたかもしれないという話も成り立つわけです。
「できる人は超短眠!」のレビューを見ても、多くの人が「堀氏は科学的根拠を示していない」ということを問題視しています。
僕は堀さんが提供されているショートスリーパーになるための講習を映像で見たことがありますが、その内容は「目覚ましが鳴ったら飛び起きる」とか「眠気を振り払うためにダッシュで別の部屋に移動する」といったようなものが中心で、何となく「力技」という印象を受けました。
それが短命に結びつくかどうかは分かりませんが、全体的な印象として「体には負担が掛かりそうだな」という感じがしたのは確かです。
短時間睡眠とアルツハイマーのリスク
もう一つ考えておくべきだと思うのが、数年後・10年後よりも、もっと長期的なリスクです。
最近はアルツハイマー型認知症の研究が進んだことにより、完全な認知症に移行する前の段階(MCI)の状態であれば、生活習慣を改善することで、かなり症状を軽減できる場合もあるそうです。
カリフォルニア大学のデール・ブレデセン医師による「リコード法」という方法は、日本のテレビなどでも紹介されたので、知っている人も多いかも知れません。
参考:認知機能低下は治せる!防げる!初期のアルツハイマー病の9割が改善する新たな治療法とは!?「世界一受けたい授業」より
そして、リコード法の中で重要だと考えられている要素の一つが「睡眠時間の確保」です。
これは、眠っている間に脳が老廃物を十分に処理できるようにすることで、アルツハイマー型認知症の原因物質を取り除けるようになる、という考え方にもとづいています。
リコード法に関する研究の中では、1日の睡眠時間は7~8時間が望ましく、睡眠時間が6時間以下の子供は将来アルツハイマー病になりやすいというデータが得られているそうです。(TV放送内容より)
普通の人が訓練によってショートスリーパーになろうとするという活動は、割と最近はじまったことだと思うので、数十年という単位で問題になるような認知症との関係については、まだまだ検証が必要でしょう。
ショートスリーパーになることによって短命にならなかったとしても、早い段階で認知症になってしまったら、時間的に得をしたとは言えない気がしますからね。
ショートスリーパーは短命なのか?に関する結論
以上のことをまとめると、当サイトの見解としては以下の通りになります。
- ショートスリーパーかどうかについては遺伝的体質の問題もある
- 短時間睡眠を実現するために無理をすれば、短命になるリスクが無いとは言えない
- ショートスリーパーになることについては長期的なデメリットに関する検証が不十分
結局の所、生まれつきのショートスリーパーの人以外は、できるだけ睡眠の質を高める工夫をした上で、「無駄に長く寝ないようにする」くらいに留めておいた方が無難ではないでしょうか。